“T”Plays It Cool

「弊社を志望された動機は?」
オレはしがない私立大学の4年生。まだ就職が決まらない。出遅れている。全く持って出遅れている。このまま決まらなかったらどうしよう?まぁそのまま喫茶店でバイトすりゃあイイじゃん。内なるオレが言う。そうだねー。内なるオレにオレが答える。特に希望の職種などない。土日休みが良い。残業がなければもっと良い。兎に角、ふっつうの仕事でイイのだ。
「弊社を志望された動機は?」
この前受けた会社は「雑誌の編集/進行管理、未経験者OK」とあったので電話すると「すぐに面接を受けに来てくれ」と言われ、いざ面接に行くと風俗誌の編集業務だった。目の辺りを手で隠すような素人が一杯載っているようなヤツだ。「そういう女の子たちに取材をして、得意技なんかを聞いてきて記事にまとめる。それが主な仕事ね」デップリと肉付きの良い社長がそう言った。都内のとあるマンションの一室。「あ、そうそう、これウチのサイトね」とパソコンのディスプレイをこっちに向けてくれる。「ハァ」とオレ。裸の女がウッフンアッハンといったようなポーズをとっており、そのモニタを、平日の午前中に、男同志が向かい合って、ジッと2人して眺めている。風俗業界にこれといって偏見はないつもりだが、その日に断った。普通の雑誌と偽って求人を出していたのが、何より腹立たしかった。
「あなたの長所をお聞かせ下さい。あなたの短所をお聞かせ下さい」
そして今、別の会社の面接を受けている。また面接だ。長所?そんなモノ無いに等しい。だってどうなんだろう、そんな「自分の長所」を自覚の上で把握してるヤツ。やだやだ。そして「オレの短所」?それなら腐る程あるぜ!まずオレは協調性がない。自分が興味がある人の話でないと話が頭に入っていかない。自分の興味の無い事は覚えられない。今日の面接は、飲食店などの模造品を作っている会社の面接。そう、あのパスタとかラーメンにフォークやお箸がテレキネシスのように浮いているように見える、店頭によく置いてあるアレだ。アレを売りに行く仕事、すなわち営業だ。
「ハイ、今は確かに、業務の上で必要であろう運転免許を所有していないのですが、もし内定を頂ければ、知らせを受けたその足で運転免許教習所に願書を取りに行こうと考えております。そして、業務が始まる前には都内の渋滞など抜け道でスイスイです」
我ながら馬鹿馬鹿しいこと言ったと思うが、3人いた面接官の1人がクスッとなったので、「あ、今、心が通じた!」と嬉しくなって柄にも無く顔に出てしまった。その固まった不気味な笑顔のまま、面接は終了した。
「結果は今週中にでも電話でご連絡差し上げます」
正直な話、この会社で大満足だ。いや、こんな会社でどうなのよ?飲食店の前に飾る模造品、なんていう狭い狭い世界で、さっきの会社は一体どれほどのシェアがあるというのか。いや、そんなことを心配する必要はない。とにかく、どこでも良いからとりあえず就職するのだ。
帰り道、ホームレス定住位置となってしまっている地下道を通りかかった。オレも明日は我が身だ、いつこの人たちと「あっちに缶いっぱいあったよ」「マジっすか?!」などと情報交換をしている未来が絶対に無いとは言い切れない。ウンウン、オレも頑張るからあなた達も頑張って!一人で感極まり、BRAND NEW HEAVIESの「YOU'RE THE UNIVERSE」のサビを口ずさもうとしたその刹那、後ろから突然声をかけられた。
「てめえ、何見てんだよぅ」
えらくガタイのイイ男だ。筋骨隆々。日本人離れした顔、浅黒い肌、そして髪型はモヒカンだ!オレはこの前、バイト先の先輩が「よぉ〜、これマジおもしれーから」と貸してくれたビデオ、「DCキャブ」とかいうスゲーおもしれー映画に出ていた俳優にソックリだ!と思った。名前が思え出せない。ミスターP?いや「P」じゃねえな・・・「G」?うーん、やっぱり違う気が・・・とか思ってたら、男は何も答えずに思案に耽っていたオレをベアハッグしだしたのだ!
「ふざけるな!こうしてやる!」「アイタタタ!ち!ちょ!タンマ!!」
ギリギリギリギリ!オレは気を失った。
翌朝、オレは自分の部屋で目を覚ました。ズキズキと頭が痛む。オレはリクルートスーツを素肌に着込む、という、まるで往年のロックスターもかくや、という格好をしていた。何も思い出せない・・・いや、かすかに思い出せる!・・・ベアハッグされて気を失って、そしてオレは正気に戻って、介抱してくれたモヒカンの男に礼を言った。それで打ち解けて和民だか魚民に飲みに行ったのだった。オレはひとまず、力一杯に伸びをすると、腰の周りに何やら異物感を感じた。ジャケットのポケットに、紙くずが丸まって収まっている。広げると、そこにはこう記してあった。
「面接官なんて、オレがブッ飛ばしてやらぁ!だけど飛行機だけは勘弁ナ! Mr.T」
あー「T」か!Tだったか!オレはそのアルファベット一文字が解ったのに気を良くして、モヒカン男にワイシャツをあげてしまったのを思い出した。
オレは頭をシャッキリさせようと、まずパソコンを立ち上げた。そして、壁の時計を見ながら、ああ、これから少ししたらバイトに行かなくては、とボンヤリした頭で考えた。そして、スーツのジャケットを脱ぎ捨て、近くに丸まっていたTシャツを手に取った。・・・クサー!汗臭い!コレも!コレも!わーバイトに着ていくTシャツもないのかよオレー!
ションボリしながらパソコンのモニタに目をやれば、気になるリンクが視界に飛び込んできた。




はてなTシャツ欲しい!*1



Shelter

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Trouble Man

Trouble Man




*1:はまぞう仕様希望