「メタリカ:真実の瞬間」を観ました。
メタリカ通産5枚目のスタジオアルバム、通称“ブラックアルバム”は、ガチにプロ・トゥールズを導入したアルバムとして知られています。それを受けて、ビースティ・ボーイズのアドロックは当時こう思ったそうです。
「ロックバンドがソレ使うかぁ?!」
今でこそ、ロックバンドがアルバムを制作するのにプロトゥールズを導入するのなんて、珍しくも何でもありません。だがブラックアルバムが発表された'91年以前には「フレーズを切り貼りできる道具を、ロックバンドがアルバム録音時に使用する」などと言う事は前代未聞だったのでしょう。元々、ドラマーのラーズ・ウルリッヒの「リズムキープがどうもね…」という点を補う意味でプロトゥールズを導入した、という話もありますが、結果として出来上がったアルバムは「馬鹿デカい音・かつクリアなドラムサウンド、分厚いギター&ベース、表現力を増したVo」という強靭な音源に仕上がり、セールス的にも驚異的な数を叩きだしました。世界各国で売れに売れたのです。
スラッシュメタルからスタートしたバンドは、4作目の「…And Justice For All」でプログレに到達し、ブラックアルバムでは「リフに重きを置いたヘヴィーメタルとしてのソングオリエンテッドアルバム」という新境地を開拓するに至りました。この後、HR/HM界にはブラックアルバムの影響により、多くのスラッシュメタル的な音のバンドが次々とミドルテンポでヘヴィなリフをザクザクと刻むような曲を発表する、といった「モダンなヘヴィネス」のブームが台頭します。その後のグランジ爆発〜へヴィロック〜ヘヴィロック+ヒップホップといった流れの源流ともいえる、ある種の礎的な作品と呼べるのがメタリカの「ブラックアルバム」なのです。
その後、メタリカは「Load」「Reload」というアルバムを発表しますが、ソングオリエンテッドの面をより強調したその作風に、熱心なファンから総スカンを喰らいます。そして'01年にはベースのジェイソン・ニューステッドが脱退、「このままじゃイカン…」というメンバーが心機一転挑んだアルバムが「St.Anger」で、「真実の瞬間」は当初、このアルバムのレコーディングドキュメントという形で企画がスタートしました。
ところが撮影が始まってみると、メンバー間の不和→Voのジェイムズ・ヘットフィールドはアル中の治療の為に一年間戻ってこない→借りていたスタジオを引き払う→ジェイムズが戻ってきたら戻ってきたで主治医命令によりレコーディングできる時間が制限されるetc…と、面白トピックが目白押し。制作者の意図からガンガン離れて行くところにドキュメンタリーの醍醐味があるので(例えばこの映画のように)、きっと監督のジョー・バリンジャー&ブルース・シノフスキーはカメラを回しながら「ヨシっ!!!」と思ったはずです。
このドキュメントが感動的なのは、そうした次々と降り掛かるトラブルにメンバーが「え〜〜〜い!もうヤメヤメヤメぇ!!」とならずに、スポーツ界などで搾取しまくる活躍するセラピスト(左から二番目の胡散臭いオッサン)に月額約400万円(!)を払ってまでも雇い、何とかバラバラになってしまいそうなバンドを繋ぎとめようとする過程です。
以前、私は「スクール・オブ・ロック」を観て「HR/HMを奏でるのはピュアで真面目な人」という仮説を立てましたが、今回の「真実の瞬間」を観て、その思いを更に強固にしました。セラピストの「喧嘩別れしたギタリストを連れてきなさい、彼と対峙する時です」という、どう考えても無神経な申し出を言われるままに受けて長年疎遠だったデイヴ・ムステイン(メガデス)を連れてこさせたり、「ファックYEAH!」なレコーディングを済ませたすぐ後に幼い我が子と接しマイホームパパを演じたり、その子供にGAP(!)のTシャツを着せてみたり、ファンクラブの集いと称してスタジオライヴを披露したり(ファンにベースを弾かせてジャムる!)、おまけにマネージメント側の「MTVアイコンの授賞式までに新ベースが決まってると嬉しいなぁ」とのヤンワリした懇願にちゃんと応じて期日までにオーディションで新たなベースを決定したり。
ピュアゆえにラーズとジェイムズは衝突もします。「16時以降レコーディングをしない、主治医にダメって言われたから」というジェイムズに、ラーズは「決まりだから規則だからって何だよ!俺たちロックンロールバンドだろ?!ルールなんて糞喰らえ!ふぅぁぁぁっっく!!!」と喰ってかかります。このやりとりの緊迫感はちょっと凄いです。
世界中にファンを抱えるスターバンドとしてのプレッシャーを跳ね除け、個々の精神も肉体も酷使しながら、何とかバンドを継続させ、初期のようにアグレッシヴで、かつ最高にヘヴィなアルバムを作ろうする3人の男。そこまで苦心した先に一体何が待っているのか?それはドキュメントの終わりに収録されているライヴ映像見ればわかるような気がします。スタジアムを埋め尽くす耳を裂くような何万もの熱狂。その時にメタリカのメンバーの体内から放出されるアドレナリンの量など、我々常人は永遠に知る術もありません。
上の画像の「Birth→School→Metallica→Death」という素晴し過ぎるスローガン。私の友人が「ブラックアルバム」時の来日公演で購入したTシャツのバックプリントです。きっと学校の後にはメタリカしかなくて、メタリカの後には死しかない。4人のイイ歳こいた大人がそう言い切ってしまうカッコ良さ、そんな事を感じたドキュメンタリーでした。
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