「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」を観ました。
「アバウト・シュミット」の監督、アレクサンダー・ペインが99年に撮った日本未公開の作品で、コレが大傑作でした。DVD欲しいです。あんまりにも面白かったんで、コメンタリーも併せて2回観ちゃった。
ネブラスカ州オマハのとある高校で生徒会長の選挙が行われるが、ほとんどの生徒は無関心。一人ノリノリで立候補をした優等生トレイシー(リース・ウィザースプーン)にほぼ決まりと思われていたが、トレイシーを好ましく思っていない教師のジム(マシュー・ブロデリック)は、そんな一人勝ちな状況が気に食わない。そこで、オツムは弱いが学園の人気者であるポール(クリス・クライン)を煽り、対立候補として立候補させるが・・・というお話。
タイトルからして学園モノを想像なさる方が多いと思うのですが、この映画の視点は教師のジムにあります。かつては理想に燃えた若者だった彼も40代に差し掛かり、認めたくはないが惰性で教師生活を送る毎日。そこへ優等生として一点の曇りも見せないトレイシーが、また一つキャリアアップを成そうとしている。「これは何としても阻止しなければ!何故ならここで食い止めなければ、今後も彼女は自分のような負け組を駆逐し続け、勝ち組への階段を猪突猛進していくのだから!」という、とても明解な行動原理の元、彼は「トレイシー撃沈作戦」を開始するのです。視点は序盤こそ教師のジムにあり、感情移入が出来るような作りになっているのですが、そんな彼も以前から好意を寄せていた友人の妻と関係を持ち始めた頃から暴走を始めます(ジムは妻帯者ですが子供はいません)。この辺りから観客の視点も個々のキャラクターや話の構造全体へと向けられるようになり、ジムが決定的な「過ち」を犯すクライマックスへ到達すると、もはや観客が彼に抱く思いは憐れみでしかありません。
それなりに裕福な暮らしだからこそ生まれる、それなりの不満感。だからそれなりの不満の表明として、せめて石ころぐらいは投げつけてやりたい。しかし、そんな中途半端でちっぽけな意思表明をしたところで世界は変わらないし、諸行無常として徒然なるままに流れて行くだけ。これは「アバウト・シュミット」にも通ずるテーマでした。そうしたテーマを都市部に暮らすクールな人々ではなく、オマハという中西部に暮らす、それなりに生活に余裕がある普通の人々(ここが重要ですが、この映画の高校生達はスリムジーンズを履き、インナーをジーンズの中に入れます)を通して描く、という点で見れば、アレクサンダー・ペインは現代アメリカの小津安二郎なのかも知れません。
だがしかし、ペインには小津にはない明確な悪意があります。上記の添付画像は私が意図してこのカットを選んだ訳ではありません。リース・ウィザースプーンはこの変な顔を、何と静止画として晒されてしまうのです(しかもコメンタリーではこの顔に付いては一言も触れず、全然関係ない他のシーンで「いやぁリースは素晴らしい女優だよ」とか言ってやんの(笑))。最も、そういった技術的な作為を何よりも嫌う小津だからこそ、あんな作風になったわけなのですが。そして小津にも今アメリカで活躍する若手監督にも無い点として、ペインは普通の人々のセックスにも真摯に向き合います。
この映画の前にも「シチズン・ルース」という、これまたオマハを舞台にした作品があるようですが、ソフト化はされていないようです。今後の動向が気になる監督がまた一人増えてしまいました。「キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!」「ジュエルに気をつけろ」と並び「気をつけろ三部作」として記憶しておきたい作品です。みなさんも是非ご鑑賞あれ。
追記 今imdbで調べたらペインの待機作は「Nebraska」だって!小津街道まっしぐら!