初モグリ☆


DCPRG総帥・菊地成孔氏の東大ゼミ第7回
「12音平均律→バークリーメソッド→MIDIを経由する近・現代商業音楽史
に行ってきました。


初もぐりにして初東大っすよ!堂々と学生面して入っていきましたけどね、ZAZEN BOYSのTシャツ着て。講義が行われる教室がどこだかわからずウロウロしていたら、何やら行列を発見。その列の中にジョン・ケージのTシャツを着た人がいたので「わかりやすっ」と心の中で呟きつつ5分ぐらいまえに入室。講義はこの回で7回目で、当初はもぐりの方が多かったようなのですが、段々と東大生も増えているようで、でも同じようにもぐりの学生も増え続けているようです。これまでの流れは非常に為になるココ*1をご参照頂くとしまして、第7回目はズバリ…

「 1960年代俯瞰 a:サックス奏者とドラマーから見る60年代モダン・ジャズの変化について 」

要点を挙げますと、モード・ジャズから派生し、60年代に世界を接見したフリージャズのフリーとは、一体何からのフリーで有ったのか? それは英語で言うところの「FREE」と「LIBERTY」である、という話を支柱に、ジョン・コルトレーンアルバート・アイラーオーネット・コールマンといった3人のサックス奏者を紹介していました(このメンバーにエリック・ドルフィー、ピアニストのセシル・テイラーを加えた5人が、60年代フリージャズを語る上で非常に重要とのこと)。大きなムーブメントが起こる時、ビバップしかりモードしかり、そこには必ず中心・中核となる数人がいるそうです。
興味深かったのが「ノイズマシーンとしてのサックス」という話。サックスで「ポブキィ〜〜〜」とノイズを出すのは凄いテクニックでも何でもなくとても簡単だそうで、キレイにドレミ…とか吹く方がよっぽど100倍は難しいそうです。「私たちで(菊地氏と大谷能生氏)演って見せれば一番早いんですが、ホラ、私たち一応ミュージシャンだから、実際演奏するとなると発生してしまうコレ(2人示し合わせたかのように親指&人指し指で輪をつくり)が・・・ねえ?」というのには笑いました。そして、サックスはノーマルトーンとノイズトーンの間を瞬時に行き来する事が可能な楽器とのことで、トランペットでもそうしたノイズは出せるんですが、トランペットをどんなにフリーキーに吹いた所でそれは単にノーマルトーンの加工品でしかなく、サックスのノイズトーンはノーマルトーンとは全く異なるオルタナティヴなトーンである、という言及に無知なワタクシは「へぇ〜!」と、それこそボタンがあるなら連打していました。


更に、上記のサックスにおけるノイズトーンは、「歪み=ディストーション」という形をとった、それまでのモードジャズという記号化への拒否である、ということ。


60年代に盛り上がりみせる公民権運動。ビートルズの出現によるブリティッシュ・インヴェイジョンにより、それまでポピュラーな音楽だったジャズが一気にマイノリティとなり、どんなに素晴らしい録音を残しても売上では到底敵わない、という受け入れ難い事実。高度に形成され尽くしたモダンジャズに対する抵抗。それらの要素が渾然一体となり「…んんんああぁヴぅがぁ!!!」という形で噴出したのが、サックスの「ポブキィ〜〜〜!」というディストーションであり「怒り」である、と。
この時期のコルトレーンを語る上で重要な「Impressions」「Selflessens」「A Love Supreme」「Ascension」「coltrane in Japan」「Interstellar Space」といったアルバムを紹介していたのですが、この「Ascension」について思うところがありました。
「Ascension」(昇天の意)では、これまでのコルトレーンのアルバムと異り、延々ソロが続いて盛り上がっていった果ての「ノイズ」では無くて、いきなりの「ノイズ」で、ベースラインやピアノはまわりで辛うじて鳴っているという感じでほとんど聴こえない。それらは後景となりドラムスとサックスが前景となる、という構造を成している、という点。これを聞いて、あるアルバムを思い出しました。


それはメタリカの4枚目のアルバム「...AND JUSTICE FOR ALL」*2です(前振り長っ…画像参照)。


このアルバムはベースが全くと言っていいほど鳴っていないアルバムです。それと言うのも、オリジナルメンバーであるクリフ・バートン(b)の死によって加入した最年少のジェイソン・ニューステッドとメンバーの不和が関係している、というのが有名な話ですが、この日の講義を聞いて「ベースレスな感じは、ギターリフを聴かせたいがだけの為に取った手法故の結果ではなかったか?」という考えが確信となりました。改めて聴き直しましたが、ひたすら繰り出されるギターによるリフ・リフ・リフ!に圧倒されます。もうユニゾンが過ぎてブンブンいってます。全てはギターリフを聴かせたいが為に、曲は複雑に、そして長尺で展開し、カーク・ハメットのギターソロもジェイムズ・ヘットフィールドのVoもラーズ・ウルリッヒのドラムも、全てはギターリフをカッコ良く惹き立てるだけの為に鳴らされる。しかもこの延々と繰り出されるリフというのが、およそ血の通った感じがしないカッチカチに冷徹なモノで、そこにあるのはロック、スラッシュメタルのそれではなく、むしろテクノやブレイクビーツに近いです(でも機械的ではあるけど、ボディ、インダストリアルとはちょっと違う感じ)。ロックでスラッシュメタルな感じは3枚目「MASTER OF PUPPETS」と聴き比べて頂けばわかると思います。Metallica「...AND JUSTICE FOR ALL」は正にギターリフミュージックの最高峰であり、その後に現在のへヴィロックの礎を築いた歴史的名盤 PANTERA「VULGER DISPLAY OF POWER」*3への布石ともなる重要な作品と言えるのです(あくまでも私感)。
さて話がクリムゾン「エピタフ」を絶唱していた頃の全盛期における西城秀樹の腰の動きよろしく「ヴ〜めらん!」と反れました。この後のコルトレーン「Interstellar Space」の「鈴を鳴らしだしたらヤバイ!」という話や、アルバート・アイラーの「統合不全」話や、オーネット・コールマンの当時10歳の息子が叩く「プリミティブにも程がある!」ってなドラムの話など、他にもオモシロ話がフォローしきれないほど目白押しだったんですが、長くなってしまったんで詳細は菊地ゼミ非公式サイトを参照してみて下さい。ちなみに次回は「こんなのデタラメじゃん!!」と、みんなが気付き始めた(笑)70年代の話だそうです。


菊地成孔東大ゼミ潜入レポート 第8回はコチラ

*1:管理人さんグッジョブ!この方は社会人なのでゼミに参加できない時は代わりに奥さんに出席して貰うという涙ぐましいハードワークっぷり。掲示板には菊地氏本人による書き込みもあり。http://f37.aaacafe.ne.jp/~skmogura/

*2:邦題は「メタル・ジャスティス」!http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000002H6C/qid=1087103645/sr=1-5/ref=sr_1_10_5/250-9864323-4654619

*3:邦題は「俗悪」!!http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000002JOH/qid=1087103885/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/250-9864323-4654619