“再ヤンキー化”への“ロード” 〜ケータイ小説的。“再ヤンキー化”時代の少女たち〜

「タイアップの歌謡史」「自分探しが止まらない」に続く速水健朗氏の三作目の単著を読みました。

ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち

ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち

「小説をほとんど読んだことが無い作者によって書かれ、小説をほとんど読んだことがない読者によって読まれている」というケータイ小説を、被差別小説と位置付け、「こんなに売れてるのに誰からも合点の行くケータイ小説論が語られないなんておかしい、それディスコと同じじゃんかなぁー?!」と、速水氏が鼻息も荒く(一人称は小生、登場する女性敬称は“○○クン”*1)その背景に鋭く多角的に迫り、浜崎あゆみ、NANA、ホットロード、ティーンズロード、TSUTAYA、ジャスコetc…などのキーワードを頼りにケータイ小説を紐解いていきます。
例えば、DVDの普及以降、レンタルビデオ屋はもう回転する見込みの無いビデオをワゴンセールなどで叩き売りしたりしています。自分も「100円だから」という理由で「どう考えても駄作」という作品でも「話の種になれば」というイヤラシイ気持ちから見たりすることがあります。しかし、この自分と同様のフィールドワークをただの話の種レベルに終らせずに、その作品が生まれた背景、主に支持した層、製作者の意図と完成してからのズレなど、90年代の「ああ、あったねー!(そういう人いたねー!)」という徒花的文化遺産を、実に多種多様な切り口で再考察し、ケータイ小説のバックグラウンドとしてどういう意味を成しているかを論じていく速水氏の姿には、ちょっとした畏敬の念すら抱いてしまいます。
特に後半の、ケータイ小説世代の恋愛感、デートDVに言及する辺りの筆のノリっぷりは白眉で、締めの「電話/メールなどの携帯メディアに依存する彼ら彼女らに残された一縷の望みは、繋がらないことの不確実さ」という一文などは、吐き気がするほどロマンティック!でした。
さて、そんな本書にも重大な「穴」があります。それはTHE虎舞竜の「ロード」をスルーしていることです!

曲の背景
1987年の冬、当時「トラブル」というバンド名だった彼等のファンである一人の少女(当時19歳)から、ボーカルの高橋ジョージの元に届けられたファンレターが、楽曲「ロード」誕生のきっかけである。 その手紙は、「現在子供を妊娠していて、相手の彼は離婚歴のある一児の父親。しかし『もう子供はいらない…』と言っている彼に、そのことをどう打ち明けたら良いのか」という相談の内容であった。その後、彼女は春に出産することになったが、彼女はその春を迎える前に交通事故で胎児と共に死亡してしまった。この事実に衝撃を受け、高橋ジョージは「ロード」を作詞・作曲したという。

1992年、シングル「こっぱみじんのRock'nRoll」リリース。このときカップリングに「ロード」が収録され、世に出た最初の音源である。その後、カップリング「ロード」が有線放送で火がつき上昇。

1993年、改めてレコーディング、バンド名も「The虎舞竜」として「ロード」をリリースする。
〜ロード (楽曲) wikipedia

十代の望まれない妊娠、認証しようとしないお腹の子の父親、交通事故で少女と胎児は死亡、とまさにケータイ小説的モチーフがテンコ盛り!しかも13章まで「ロード」は続き、その後は映画化までされています。
映画化まで辿り着くと、一般に流布するという点でケータイ小説もピークを迎えるような気がしますが、「恋空」の映画版に、主人公:美嘉の父親役で虎舞竜の高橋ジョージが出演しているという点も、何か非常に象徴的なように思えてきます。

とはいえ、渋谷系もグランジもモンド映画も登場しない裏90年代史(いやこっちが表か)としても非常に読み応えのある本となっていますので、気になった方は是非お読みになったら良いと思います!

タイアップの歌謡史 (新書y)

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自分探しが止まらない (SB新書)

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*1:ウソです。