人生の輝きは桃の香り「刺さった男」

自分の身体の一部に刺さった鉄の棒が、熱され、その熱が脳に伝わり悲鳴を上げる。これは一体どのような体験だろうか?長年映画を観てきてこのかた、これほど恐ろしい場面にお目にかかったことがないような気もする。 アレックス・デ・ラ・イグレシアの2012年…

堕ちるも沈まない女 『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』

映画でも小説でも、「堕ちていく女」の話は、「堕ちていく男」の話のそれより多いような気がするのは気のせいだろうか? ラース・フォン・トリアーの新作「ニンフォマニアック」はvol.1とvol.2からなる、合わせて4時間の大作である。性に奔放な女性:ジョー…

「バッドタイム」(監督:デヴィッド・エアー)

近所のスーパーのワゴンセールで、廉価版が500円で売っていたため何の気なしに購入し鑑賞。が、これはちょっと今までスルーしていたのが勿体無いぐらいの異色作だったのでここに記しておく。 映画は主人公のジム(クリスチャン・ベイル)が兵士としてアフガ…

おうちへかえろう「GODZILLA ゴジラ」

映画における残酷な描写の一つに「子供が死ぬ」という状況がある。主要なストーリーと関係なく、台詞もろくにないような子供が、例えば交通事故などで死んだとして、それはある種、三番手ぐらいの大人のキャラクターの死より鮮烈であったりする。 怪獣映画と…

ジム・マクブライドという監督

先日、タランティーノもオールタイムのベストに入れるという(この人の“オールタイム”はしょっちゅう変動するので今もランクインしているかは不明)「ブレスレス」を観直す機会があったが、あまりにも面白く、監督のジム・マクブライドのことは以前から気に…

イン・ザ・ネーム・オブ・何?『ダラス・バイヤーズクラブ』『あなたを抱きしめる日まで』『チョコレートドーナツ』

今年上半期に観た作品、それも実話ベースの作品を多く鑑賞したような気がしたが、それらの作品の中にある共通点があることに気が付いた。それは「本来であれば人を守るべきものが、一部の人間には時に障壁となって立ち塞がる」というテーマである。 『ダラス…

もう一人のベイトマン「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

昨年の暮れに、映画批評としては実に20年ぶりの単著となる「映画のウトピア」を発表した粉川哲夫氏が、その中で『アメリカン・サイコ』について以下のような指摘をしていた。 情報化への産業構造の本格的な変化のなかで、彼ら(ヤッピー)は、弁護士、医者、…

2013年公開作品ベスト10&その他

1. 『ジャンゴ 繋がれざる者』 (感想) 2. 『アウトロー』 3. 『ザ・マスター』 (感想) 4. 『ウィ・アンド・アイ』 (感想) 5. 『エリジウム』 (感想) 6. 『ハンナ・アーレント』 7. 『デッドマン・ダウン』 8. 『ルームメイト』 9. 『ザ・フューチャ…

SF映画ベストテン

ワッシュさんの「SF映画ベストテン」に参加いたします。 自分で再認識するためにも、思いついた10本を4つの柱に振り分けてみました。以下に順不同で。 1.郊外SF 「E.T.」 「ドニー・ダーコ」 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 簡単に説明すれば「郊外を舞…

僕らの未来は鉛色 「エリジウム」

(展開に触れているので未見の方はご注意を) 例えば地球に不時着して難民キャンプでの暮らしを強いられるエイリアンの造形がエビのようなデザインではなく、人間の耳が少し尖がっただけでピタピタの衣装に身を包んだエイリアンだったら、と想像してみてほし…

JJの最大の弱点は、丸首シャツだ。

かつて、その喋り方や雰囲気の何とも形容しがたい面白さから、こんなデタラメのエントリをでっち上げたことがあった。 ■J.J.エイブラムスが語る、幻の映画「S:8」とは? 師匠がそうであるように(ニホンノミナサン、コニチハ、スティーブンスピルバーグデス…

表現者のアラセブ問題 「トゥ・ザ・ワンダー」

「寡作」として知られる巨匠の劇場長編作を、まさか2年程度の期間でまた観られるとは思ってもみなかったので、鑑賞前には多少の戸惑いがあった。 しかし蓋を開けてみれば、前作「ツリー・オブ・ライフ」のテイストを踏襲しつつ、あの作品でも象徴的だったサ…

メロドラマの巨匠:ダグラス・サーク諸作品を鑑賞 その2

■自由の旗風(1955) アイルランド独立運動をテーマにした歴史冒険活劇。その1における「僕の彼女はどこ?」と同じコメディタッチの軽妙なテイストは、今回のボックスのラインナップでいうとサークのアザーサイドといった所か。宿屋でロック・ハドソンと髭…

黄昏時にバスは「ウィ・アンド・アイ」

特定の人物に目を付け苛めている人間に「人を苛めている」という自覚がなければ、そもそも苛めは成立しない、という言い方がある。 だが、苛められている方にも「自分は苛めれている」という認識がなければ、同じように「苛めなど存在しない」と言えるのでは…

メロドラマの巨匠:ダグラス・サーク諸作品を鑑賞 その1

「ダグラス・サーク」という名を初めて耳にしたのは「パルプ・フィクション」の「ダグラス・サーク・ステーキ」である、という人は、自分と同年代には結構多いのではないかと思う。その時はもちろん、それが俳優の名であるか監督の名であるかもわからぬ次第…

TOO DRUNK TO FUCK「ザ・マスター」

「12時間働いてもまだ眠れない。クソ。こうやって毎日は続き、そして終わりがない」 ベトナム帰りの元海兵隊のトラヴィス・ビックルは、戦争による後遺症からくる不眠の日々を、日記に綴ることでなんとかやり過ごしていた。いや、結果として、最後には大爆発…

ジェンキン寿司「キャビン」

ヘイ、らっしゃい!お、旦那ずいぶんご無沙汰だったんじゃないですか?旦那は本当に地底がお好きで最近めっきり出てこられないもんだからアタシも寂しい想いをしていたところなんですよ!さぁさぁ、細かいことは抜きだ!何からいきましょう?今日も旦那好み…

パーレイ・ウィズ・ユー「ジャンゴ 繋がれざる者」

クエンティン・タランティーノの映画では、よく「演じる」ということが重要なテーマとなる。デビュー作「レザボア・ドッグス」の囮捜査官しかり、「パルプ・フィクション」のギャングに八百長試合を持ちかけられて裏切るボクサーしかり、「ジャッキー・ブラ…

手負いのネコと喋るクマ 〜「ザ・フューチャー」と「テッド」の35歳問題〜

※両作品の内容に触れているので未見の人は注意 まず、偶然ではあろうけど、共に「35歳、付き合って4年になるカップル」をメインのキャラクターに据えているという点が共通していることに驚いた。そして「カップルの将来を改めて考えるきっかけとなるのが動物…

2012年公開作品&その他 ベスト10

1. 『ル・アーヴルの靴みがき』 2. 『ファミリー・ツリー』 3. 『捜査官X』 4. 『預言者』 (感想) 5. 『バーク アンド ヘア』 6. 『テイク・シェルター』 7. 『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』 8. 『007 スカイフォール』 9. 『声をかくす人』…

ウェルズ・タワー「奪い尽くされ、焼き尽くされ」

奪い尽くされ、焼き尽くされ (新潮クレスト・ブックス)posted with amazlet at 12.11.25ウェルズ タワー 新潮社 売り上げランキング: 274356Amazon.co.jp で詳細を見る 73年生まれ、学年でいえばミランダ・ジュライと同学年のウェルズ・タワーのデビュー短編…

夜の略奪者たち「ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ」

言わずと知れたニュースクールの代表選手:ア・トライヴ・コールド・クエスト(ATCQ)の面々に、俳優のマイケル・ラパポートが監督として迫ったドキュメンタリー作品。 ラパポートはグループ結成〜一躍時代の寵児に〜不仲説などが取り沙汰され解散〜そして再…

ホラー映画ベストテン

id:washburn1975さんの「ホラー映画ベストテン」に参加いたします。以下、順不同で10本挙げてみます。 「シャイニング」 まぁ様式美ッスよね。 「サスペリアPART2」 これも様式美ですね。もうあの人形が怖くて怖くて……。ゴブリンによるサントラも名盤で…

8.25(土)は「RETURN TO FOREVER Vol.2」です!

【RETURN TO FOREVER Vol.2】 ■ 2012/8/25(sat) 14:00〜21:00 ¥1500 (2ドリンク付き) ■ DJs: @DiRRKDiGGLER,@norinori70,@Ginger does'em all,@mochilon,@moriura(ex.quinta_mind) ■GUEST DJs: @トーニャハーディング @HOMECUT ■place:喫茶SMiLE →…

テリトリアル・ピッシングス「桐島、部活やめるってよ」

※オチの解釈に触れているので未見の方は注意 例えば自分の思春期を振り返ってみた時、あの「己の領域」という頑なさは一体どういう融通の利かなさだろう?と思うところがある。いや、今だって十分に融通が利く性分とはいえないが、それにしたってもう社会人…

飛浩隆「象られた力」

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)posted with amazlet at 12.07.28飛 浩隆 早川書房 売り上げランキング: 65610Amazon.co.jp で詳細を見る 不勉強なので、ツイッターのアカウントで作者ご本人のことを知り、そして著作を手に取ってみれば、その内容…

カベイラ! 「エリート・スクワッド」二部作

■『エリート・スクワッド』 リオ・デ・ジャネイロにローマ法王が来訪することになった。警察のエリート特殊部隊BOPEの隊長ナシメントは、法王が宿泊を希望した場所の近くにある、危険なスラム地帯にはびこる麻薬ディーラーを一掃せよとの命令を受ける。妻が…

歴史は後ほど作られる「ミッドナイト・イン・パリ」

ウディ・アレンの新作。本当は作家として生計を立てたいハリウッド映画の脚本家がフィアンセと共に婚前旅行でパリを訪れ、そこで憧れの1920年代にタイムスリップしてしまう、という荒唐無稽なお話。しかしそこには、こうした荒唐無稽なタイムスリップ物でし…

負け続ける若者たち〜「サイタマノラッパー」三部作〜

三作目の公開に合わせて過去作を鑑賞して、色々と思うところがあったので以下に記したいと思います。なお、三作鑑賞済みという前提で話を進めますので、未見の方はどうぞご注意を(あんまりネタバレがどうこう、っていう映画でもないと思うけど)。 ■SR サイ…

2011年度オスカー候補・受賞作の備忘録(ノレた編)

「ヒューゴの不思議な発明」 撮影・美術・視覚効果・音響(編集・調整)賞受賞 作品・監督・脚色・作曲・衣装デザイン・編集賞ノミネート 「アーティスト」よりは断然にサイレント期の先人たちに払った敬意が伺える映画だが、問題点がないわけでもない。 「…