映画

もう一人のベイトマン「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

昨年の暮れに、映画批評としては実に20年ぶりの単著となる「映画のウトピア」を発表した粉川哲夫氏が、その中で『アメリカン・サイコ』について以下のような指摘をしていた。 情報化への産業構造の本格的な変化のなかで、彼ら(ヤッピー)は、弁護士、医者、…

2013年公開作品ベスト10&その他

1. 『ジャンゴ 繋がれざる者』 (感想) 2. 『アウトロー』 3. 『ザ・マスター』 (感想) 4. 『ウィ・アンド・アイ』 (感想) 5. 『エリジウム』 (感想) 6. 『ハンナ・アーレント』 7. 『デッドマン・ダウン』 8. 『ルームメイト』 9. 『ザ・フューチャ…

SF映画ベストテン

ワッシュさんの「SF映画ベストテン」に参加いたします。 自分で再認識するためにも、思いついた10本を4つの柱に振り分けてみました。以下に順不同で。 1.郊外SF 「E.T.」 「ドニー・ダーコ」 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 簡単に説明すれば「郊外を舞…

僕らの未来は鉛色 「エリジウム」

(展開に触れているので未見の方はご注意を) 例えば地球に不時着して難民キャンプでの暮らしを強いられるエイリアンの造形がエビのようなデザインではなく、人間の耳が少し尖がっただけでピタピタの衣装に身を包んだエイリアンだったら、と想像してみてほし…

JJの最大の弱点は、丸首シャツだ。

かつて、その喋り方や雰囲気の何とも形容しがたい面白さから、こんなデタラメのエントリをでっち上げたことがあった。 ■J.J.エイブラムスが語る、幻の映画「S:8」とは? 師匠がそうであるように(ニホンノミナサン、コニチハ、スティーブンスピルバーグデス…

表現者のアラセブ問題 「トゥ・ザ・ワンダー」

「寡作」として知られる巨匠の劇場長編作を、まさか2年程度の期間でまた観られるとは思ってもみなかったので、鑑賞前には多少の戸惑いがあった。 しかし蓋を開けてみれば、前作「ツリー・オブ・ライフ」のテイストを踏襲しつつ、あの作品でも象徴的だったサ…

メロドラマの巨匠:ダグラス・サーク諸作品を鑑賞 その2

■自由の旗風(1955) アイルランド独立運動をテーマにした歴史冒険活劇。その1における「僕の彼女はどこ?」と同じコメディタッチの軽妙なテイストは、今回のボックスのラインナップでいうとサークのアザーサイドといった所か。宿屋でロック・ハドソンと髭…

黄昏時にバスは「ウィ・アンド・アイ」

特定の人物に目を付け苛めている人間に「人を苛めている」という自覚がなければ、そもそも苛めは成立しない、という言い方がある。 だが、苛められている方にも「自分は苛めれている」という認識がなければ、同じように「苛めなど存在しない」と言えるのでは…

メロドラマの巨匠:ダグラス・サーク諸作品を鑑賞 その1

「ダグラス・サーク」という名を初めて耳にしたのは「パルプ・フィクション」の「ダグラス・サーク・ステーキ」である、という人は、自分と同年代には結構多いのではないかと思う。その時はもちろん、それが俳優の名であるか監督の名であるかもわからぬ次第…

TOO DRUNK TO FUCK「ザ・マスター」

「12時間働いてもまだ眠れない。クソ。こうやって毎日は続き、そして終わりがない」 ベトナム帰りの元海兵隊のトラヴィス・ビックルは、戦争による後遺症からくる不眠の日々を、日記に綴ることでなんとかやり過ごしていた。いや、結果として、最後には大爆発…

ジェンキン寿司「キャビン」

ヘイ、らっしゃい!お、旦那ずいぶんご無沙汰だったんじゃないですか?旦那は本当に地底がお好きで最近めっきり出てこられないもんだからアタシも寂しい想いをしていたところなんですよ!さぁさぁ、細かいことは抜きだ!何からいきましょう?今日も旦那好み…

パーレイ・ウィズ・ユー「ジャンゴ 繋がれざる者」

クエンティン・タランティーノの映画では、よく「演じる」ということが重要なテーマとなる。デビュー作「レザボア・ドッグス」の囮捜査官しかり、「パルプ・フィクション」のギャングに八百長試合を持ちかけられて裏切るボクサーしかり、「ジャッキー・ブラ…

手負いのネコと喋るクマ 〜「ザ・フューチャー」と「テッド」の35歳問題〜

※両作品の内容に触れているので未見の人は注意 まず、偶然ではあろうけど、共に「35歳、付き合って4年になるカップル」をメインのキャラクターに据えているという点が共通していることに驚いた。そして「カップルの将来を改めて考えるきっかけとなるのが動物…

2012年公開作品&その他 ベスト10

1. 『ル・アーヴルの靴みがき』 2. 『ファミリー・ツリー』 3. 『捜査官X』 4. 『預言者』 (感想) 5. 『バーク アンド ヘア』 6. 『テイク・シェルター』 7. 『ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋』 8. 『007 スカイフォール』 9. 『声をかくす人』…

夜の略奪者たち「ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ」

言わずと知れたニュースクールの代表選手:ア・トライヴ・コールド・クエスト(ATCQ)の面々に、俳優のマイケル・ラパポートが監督として迫ったドキュメンタリー作品。 ラパポートはグループ結成〜一躍時代の寵児に〜不仲説などが取り沙汰され解散〜そして再…

ホラー映画ベストテン

id:washburn1975さんの「ホラー映画ベストテン」に参加いたします。以下、順不同で10本挙げてみます。 「シャイニング」 まぁ様式美ッスよね。 「サスペリアPART2」 これも様式美ですね。もうあの人形が怖くて怖くて……。ゴブリンによるサントラも名盤で…

テリトリアル・ピッシングス「桐島、部活やめるってよ」

※オチの解釈に触れているので未見の方は注意 例えば自分の思春期を振り返ってみた時、あの「己の領域」という頑なさは一体どういう融通の利かなさだろう?と思うところがある。いや、今だって十分に融通が利く性分とはいえないが、それにしたってもう社会人…

カベイラ! 「エリート・スクワッド」二部作

■『エリート・スクワッド』 リオ・デ・ジャネイロにローマ法王が来訪することになった。警察のエリート特殊部隊BOPEの隊長ナシメントは、法王が宿泊を希望した場所の近くにある、危険なスラム地帯にはびこる麻薬ディーラーを一掃せよとの命令を受ける。妻が…

歴史は後ほど作られる「ミッドナイト・イン・パリ」

ウディ・アレンの新作。本当は作家として生計を立てたいハリウッド映画の脚本家がフィアンセと共に婚前旅行でパリを訪れ、そこで憧れの1920年代にタイムスリップしてしまう、という荒唐無稽なお話。しかしそこには、こうした荒唐無稽なタイムスリップ物でし…

負け続ける若者たち〜「サイタマノラッパー」三部作〜

三作目の公開に合わせて過去作を鑑賞して、色々と思うところがあったので以下に記したいと思います。なお、三作鑑賞済みという前提で話を進めますので、未見の方はどうぞご注意を(あんまりネタバレがどうこう、っていう映画でもないと思うけど)。 ■SR サイ…

2011年度オスカー候補・受賞作の備忘録(ノレた編)

「ヒューゴの不思議な発明」 撮影・美術・視覚効果・音響(編集・調整)賞受賞 作品・監督・脚色・作曲・衣装デザイン・編集賞ノミネート 「アーティスト」よりは断然にサイレント期の先人たちに払った敬意が伺える映画だが、問題点がないわけでもない。 「…

2011年度オスカー候補・受賞作の備忘録(ノレず編)

「ドライヴ」 音響(編集)賞ノミネート 各所で凄く評判が良いようだが全然ノレなかった。「仕事説明」といった感じのアヴァンタイトルが面白かったので結構期待したんだけど、後は監督が思い描く「このバイオレンスシーンがすごい2012」みたいなクリップ集…

I LOVE NYという免罪符「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

9.11で父親を亡くした9歳の少年が、その喪失を受け止めるべく、父の遺品である「鍵」が一体何を意味するのかを探し求める物語。原作では9.11と「ドレスデン空爆」が並行で語られるらしいが、映画で「ドレスデン」は地名としてほんの少し登場する程度(原作未…

ユビキタス極道「預言者」

6年の懲役で移送された刑務所で、アラブ系の青年:マリクは、コルシカ系の古参を筆頭とする囚人グループから入所早々に目を付けられ、無理難題を押し付けられる。助けを求めれば、その看守も賄賂を貰っていて、見て見ぬふりどころか「命令に従え」と暴行を…

隣はなにを吸う人ぞ「フライトナイト/恐怖の夜」

1985年の「フライトナイト」のリメイク作品。「引っ越してきた隣人がヴァンパイアだった!」という大筋、登場人物の設定など、基本的にはオリジナルに忠実だが、そこには微妙にツイストが加えられているという、まさに「リメイクとはかくあるべき」という佳…

2011年公開作品&その他 ベスト10

1. 『灼熱の魂』 (感想) 2. 『4デイズ』 (感想) 3. 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 4. 『アレクサンドリア』 (短い感想) 5. 『サラエボ、希望の街角』 (短い感想) 6. 『ミッション:8ミニッツ』 7. 『ラブ・アゲイン』 (感想) 8. 『ヒア…

Four of Us「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」

「インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国」ぐらいから思っていたことだけど、この「M:I GP」も所謂「前半〜中盤に最大の盛り上がり・山場がある」作品のような気がしてならない。なにしろのっけからクレムリン爆破。そして中盤にはブルジュ・ハイファ…

我が子の印「灼熱の魂」

ケベック州に住む双子の姉弟ジャンヌとシモンは、亡くなった母親ナワルからの遺言を受け、未だ見ぬ彼らの父親と兄の存在を知る。そして遺言によりジャンヌは父親への手紙を、シモンは兄への手紙を託され、二人は中東の母親の故郷へ初めて足を踏み入れる。 wi…

知りすぎた男「ラブ・アゲイン」

いつもように子供をベビーシッターに預け、夫婦で出かけたディナーの席で、キャル(スティーヴ・カレル)は妻エミリー(ジュリアン・ムーア)から突然「離婚したい」と切り出される。同僚(ケビン・ベーコン)と浮気したのが原因だとエミリーは打ち明けるが…

え?!寅さんが妊娠?「ハラがコレなんで」

例えば「男はつらいよ」を評するときに「今回はマドンナに肩入れする寅次郎の内面の描き方が弱い」などと言う人はあまりいないと思うけど、それは日本国民の大多数が「車寅次郎」という男のことを知っているのであえて説明するまでもない、という所にもある…